銭湯は、心を語る場所。
日本人にとって"ハダカの付き合い"ができる大切なコミュニケーションの場だ。ドラマや映画などでも、古くから銭湯は、登場人物の心をほぐしたり癒したり、ストーリーの中のホッとするシーンに好んで描かれてきた。
現在放送中の連続ドラマ『好きやねんけどどうやろか』(読売テレビ系(関西)深夜枠)でも、まるで重要人物の1人のように毎話登場する下町の銭湯。人情の町、大阪のど真ん中で繰り広げられる二人の男のピュア・ラブストーリーの中で、登場人物たちが心情を吐露するシーンとして重要な役割を果たしている。そのロケ地に選ばれたのは、東急大井町線中延駅からわずか徒歩2分。中延温泉「松の湯」だ。
病死した母の小さな料理屋を継いだ栄枝(簡秀吉さん)はコテコテの大阪男で明るく気のいいイケメン板前。ある日、常連客が連れてきた東京モンの真面目なサラリーマン、曽我(西山潤さん)に恋をしてしまう。しかし元カレの瑞樹(奥野壮さん)にフラれたトラウマのせいでなかなか想いが伝えられず、やっと伝えられても正反対の性格でなかなか通じ合えず、そうこうしているうちに瑞樹が寄りを戻そうと出戻ってきて…と、観ているこちらがもどかしくなる〝ムズキュン”ドラマ。原作は千葉リョウコの同タイトルコミックで、周囲の人々の温かい助けを借りながら一歩一歩前進する二人の歩みと、栄枝の作る家庭料理に、ほっこりじんわりさせられる。
そんな栄枝の、伝えたいけど伝えられない想いを幼馴染の要(堀家一希さん)にぶちまける場なのが近所の銭湯だ。第一話で栄枝と要がコーヒー牛乳を飲んだ場所は、主張激しめな暖簾が目を引く昭和感たっぷりなフロント。
「松の湯」は、湯舟だけでなくシャワーから出る水も天然温泉という昭和23年創業の老舗。現在の店主は三代目という親子稼業。目立たない門構えでありながら一歩中へ入ると美しく整備された中庭や、情緒ある下駄箱、レトロ感溢れる湯上り処に心が弾む。
以前は男湯と女湯を定期的に入れ替えていたそうだが、現在はロッキーサウナや露天風呂のある庭園側が男湯、ヒノキの炭酸露天風呂を備えた側が女湯で固定されている。
『好きやねんけどどうやろか』のロケが行われたのはもちろん男湯だ。男たちが汗を流すロッキーサウナで、栄枝と要がお約束のように、曽我の心を掴むための作戦会議を繰り広げる。
「撮影が行われたのは12月で、撮影中はサウナも温度を上げていないため、皆さんずっと裸でさぞ寒かったと思います」
そう語ったのは三代目店主の伊東正博さんと共に松の湯を支える、正博さんのお姉さん。湯舟にお湯は張っていたものの、通常の温度にすると湯気でカメラレンズが曇ってしまうため、最低限の温度での撮影。露天風呂など野外での撮影もあり、キャストもスタッフも大変だなあと見守っていたという。
「皆さん、すごく明るくて若くて活気があって、楽しそうな現場でした」
立地の便利さもあってか、「松の湯」はこれまでも多くのドラマや映画、バラエティーにロケ地として提供してきた。受付台には撮影に訪れた多くの著名人たちの色紙がずらりと並ぶ。その中に「メリークリスマス」と書かれた簡秀吉さんや西山潤さんらのサインも発見。『好きやねんけどどうやろか』の撮影日は12月25日のクリスマスだった。
「監督さんやスタッフさんが『ご家族へのプレゼントに』と、ゆっポくん(東京都浴場組合の公式キャラクター)のキーホルダーを買ってくださいました」
通常は受付に並んでいる東京都浴場組合のキャラクターグッズを、物語の設定が大阪のため、阪神タイガースのマスコットやパイン飴に飾り変えして撮影していたのが面白かった、という。
「実は明日も別のロケでお使いいただくんです」
撮影は休業日に行われるが、すっかり慣れているらしく快く撮影隊を迎えてくれる。銭湯としても老舗だが、ロケ地としてもベテランの域に達している様子だ。
「ドラマや映画でここが映ると、常連のお客様たちが凄く喜んでくださるのが嬉しいです。
逆にドラマをきっかけに足を運んでくださるお客様もいて、有難いです」
家業を継いだ伊東さんご姉弟にとってここは子供の頃から当たり前にある場所。幼い頃から番台に座ることもあり、訪れる常連客と共に時を重ねてきた。コロナ禍でも出来る限り営業を続け、代々の暖簾を守り続けている。
取材を終える頃、小雨の降りしきる中で早くも常連客がシャッターの前で開店を待っていた。「決まった場所を取りたいから」だという。毎日、自分の定位置でその日の汗を流し、天然温泉で疲れを取る。そんな日々の大切な瞬間を与えてくれる銭湯は、常連客にとって第二の我が家なのだろう。
現在、東京都内の銭湯を対象とした「銭湯のススメ2024~都営バスでめぐる編~」銭湯スタンプラリー(2024年2月6日~3月22日【公式】東京銭湯/東京都浴場組合 | 東京銭湯の最新情報をお届け)が開催されているが、2023年には品川浴場組合が独自に品川銭湯スタンプラリーを開催したほどに、この界隈は銭湯が多い。 (銭湯 - 品川浴場組合 )
まだまだ寒さが引かない春までの時間に、品川で銭湯の奥の深さを探ってみてもいいかもしれない。
結城とうま
イラスト:T_T
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